今は昔、安倍晴明という翁がおりました。その者、愛されるべき娘を守るため罪を重ねるのです。人と触れた瞬間、肌に痛みを感じる不思議な体質を持つ孤独な少女がおりました。彼女は夏休みを数日後に控えたある晩、平安時代へと時間移動してしまうのです。帝がおわす都。雅な世界と死の世界が折り重なる場所。都を彷徨う少女を拾うは柔らかな金色の髪をした少年でした。少年は言うのです。次の満月の夜、元の場所に還す、と。少女は返します。わかりました、と。他人事のような響きに少年は眉を顰めます。しかし、少女にとって少年の言うことが真実であろうと、気休めであろうとどちらでも良かったのです。元の時代に自分のことを案じる者は唯のひとりも存在しない、と思っているのですから。少年は少女の虚無的な性格に気付き命じました。「生きる屍」から「生きる者」に変われ、と。しかし、その変化こそが不幸の始まりでした。少女の抱く想いが愛する者を歪め、男たちの胸を狂気で満たしていくことになるのです。少女は大切な者を守るため、帰らなければなりません。今生の別れとわかっていても。全ては、愛する者を守るために。