俺が住むのは、単線が1本あるだけで他には何もない小さな町。いや、耳が潰れるほどにやかましく鳴くセミたちもいたか。俺・高村由利は、この町で姉のほのかと二人で暮らしている。天体観測が趣味で、将来宇宙飛行士になりたいと考えている、平凡な学生だ。この町は何もないが、それだけに空が綺麗で、夜になると満天の星空になる。特に、裏山にある池の畔で見る光景は、どこの空にも負けないぐらいの光景だ。澄んだ水面が星空を写し、宇宙にいるような気分になる。今日も、星を見るために裏山へと足を伸ばしてみたが、俺しか知らないはずの秘密の場所には既に人影があった。和服を着て雰囲気は違っていたけれど、彼女はクラスメイトの九龍明日羽に間違いない。しかしそこにいた彼女は、普段の内向的なお嬢様ではなかった。那美。そう名乗った彼女は、嘲りにも似た微笑で俺に告げる。「その瞳、大事にするが良い。遠からずおぬしの運命に関わるであろうからな」それが全ての始まり。俺が住んでいた“日常”から“非日常”へ踏み出した最初だった。