三輪正吾は、明るく朗らか……というよりはおちゃらけの過ぎる少年で、悪友たちやクラスメイトたちと毎日を楽しく過ごしている。しかし正吾には、誰にも明かしてはいないがちょっと人とは違う能力が備わっていた。人には見えないものを見てしまう『目』である。この世ならざるものが見えてしまう目。正吾は、漆黒の闇のような少女を見かける。楽しかったはずの毎日が、次第に不穏な空気をまとい始める。それでも正吾は持ち前の明るさで、そんなものは吹き飛ばしてしまうつもりだった。そんな正吾を取り巻くのは、3人の少女。ソフトボール部のエースにして、正吾のことを嫌っている同い年のイトコ。家に匿うことになってしまう、記憶を失ったらしき正体不明の少女。学校はおろか町の人間で知らない者はいない、呪い師の家柄の先輩。正吾は自分でも気付かないうちに、1人の少女に深く心を惹かれていくことになる。それが、自分の「命」を脅かすものだとも知らずに――少女との恋が、愛が、そのささやかな時間が、深く心に染み渡る――残暑にきらめく静かな町で、ちょっと不思議で、とても愛おしい物語が幕を上げる。