諸橋光明には夢がある。テレビに出たい、舞台に立ちたい、そして有名になりたい。誰にでも分かりやすいその夢は、追いかけるのが難しい。必死に稽古して、仕事を探し、自分を売り込んでみても、何も変わらない。自分はただの人のまま。暗闇を、一筋の光を頼りに歩くようなやり方は、やがて彼から輝きを奪ってゆく。自分はもっと出来るのに。もっと有名になりたい、仕事が欲しい。どうすれば重要なポジションでテレビに出られるんだ、どうすれば主役として舞台に立てるんだ。辛いばかりの生き方に、夢はじわじわと擦り切れてゆく。ある時、彼は思う。俺は何でこんなことをしているんだ?多くの夢追い人が、その問いに答えられず、挫折してゆく。光明も答えられない。けれども舞台からは降りない。なぜ?稽古が難航し、役作りが上手くいかず、悩み、自分を追い込み続ける作業が続く中、光明はふと周りを見渡す。仲間たちが皆、同じように物語を作り出す苦しみと戦っている。プロが、素人が、演出家が、スタッフが、どれも同じように戦っている。とても楽しそうに戦っている。どうして俺は演じるのだろう。いつかその問いは、夢を諦めようとする誘惑ではなく、更なる高みへ上がるための合言葉として胸に響く。プロになるということの意味を、仲間に教わり、観客に教わり、やがて自分で見つけてゆく。諸橋光明は夢を見せたい。一人でも多くの人に、自分の作り出すドラマを見せたい。舞台の上に夢を広げるため、舞台の裏で現実との戦いが続く。この話は、そんな、夢追い人たちの戦っている舞台裏を映し出す、世界の秘密の1ページである。