東京からいくつもの路線を乗り換え、片道3時間。栄えているのは駅前ばかりで、あとは見渡すかぎりのあぜ道という『よくある片田舎』。そこが、僕らの新しい家だった。僕は、父の仕事の都合で東京からこの片田舎に引っ越してきた転校生。前の学園では、妹と揃って「真面目キャラ」として定着していた。誰からも好かれない代わりに、誰からも嫌われない。空気のような存在。妹本人はそれに対して特に不満は覚えていなかったようだけれど、僕は自分を変えられるかもしれない大きなチャンスに、胸を膨らませていた。僕たちの転校は、まるでお祭りのように騒がれた。すぐに出来た友達と、学園生活を満喫する。毎日が楽しい。学校に通うという『当たり前』の中で、今まで芽生えなかった感情に、僕は虜になった。そんなある日の事。寝付けずにまんじりともしない夜を過ごしている僕の耳に、不可解な音が聞こえた。まるで、床の軋みにも似た奇妙な音だ。耳を澄ますと、それは廊下から聞こえてきているようだった。ややあって、玄関が開く音が聞こえ、ふと自室の窓から外を見る。そこにいたのは確かに妹だった。こんな夜中に一体何処へ……?そう思い、呼び止めようとして、やめる。もしかしたら、妹も新しく出来た友達と遊びに行くのかもしれない。夜遊びは感心しないが、僕だって友達から誘われたら出かけてしまうだろう。あいつもあいつなりに、学園生活を楽しんでいるんだ……そう思うと、それを見咎めようとも思えなかった。それから、妹の夜遊びは毎晩のように続いた。近所では不審火が頻発しており、お世辞にも治安がいいとは言えない。変なことに巻き込まれる前に、僕が一言だけ注意しておこう……そう決めたその日の夜、事態は急変した。学校から帰ってきた僕が玄関を開くと、そこには傷だらけの妹が倒れていた。『異常事態』僕は慌てて電話を取り、救急車を呼ぼうとして……止められた。振り返ると、そこには倒れていたはずの妹が居る。どうして、と言いかけた僕の声は、なんでもないから、と言う妹の声に掻き消された。傷の手当をしながら、一体何があったのかと問い詰める。傷は擦り傷や殴打された痕が殆どで、それは明らかに誰かから危害を加えられた証拠だ。場合によっては、警察にも届出を……そう考える僕に、妹は言った。「えっとね、あのね……実は、わたし……魔法少女なの!」その目は視点が定まらず、明らかな不安と恐怖を孕んでいる。そんな苦しい言い訳をしてまで、妹は一体、何を隠そうとしているのか。その時の僕には、まだ何も分かっていなかった。